「自由って、なんだろう?」
プリンスの『Emancipation』を初めて聴いた夜、私は問いを抱いたま
ま眠れなかった。
それはただの三枚組アルバムじゃない。36曲、3時間。狂おしいまでに濃密で、解放
という言葉をこれほどまでに切実に響かせた音楽を、私は他に知らない。
この記事を読むとわかること
- プリンスが『Emancipation』で訴えた“自由”とは何か
- ワーナー・ブラザースとの契約闘争を経た背景と意味
- 全36曲、三枚組アルバムの構成とその意図
- 各ディスクの楽曲ごとのテーマと感情の流れ
- 商業的評価と芸術的意義のギャップ
- 『Emancipation』が私たちに問いかける「生き方」の本質

名前を捨てた王子の、名前を取り戻す旅
1993年、彼は自らの名前を“記号”に変えた。
契
約という檻の中で「Prince」であることすら自由ではなくなったからだ。
『Emancipation』は、ワーナー・ブラザースとの長い戦いを経て、その檻から解き放たれた“記号”が再び人間として名乗った初めてのアルバム。タイトルの意味は“解放”。
それは音楽活動の枠を超えた、精神と尊厳の再構築だった。
12×3の設計に宿る、完璧主義と祈り
なぜ36曲なのか。なぜ3枚組なのか。
それは偶然じゃない。12曲×3ディスク、60分×3=180分──。この構成は「完全性」の象徴である12と、ピラミッド構造を示唆する三位一体を掛け合わせた“音の曼荼羅”。
彼にとって“完璧な自由”とは、破壊ではなく「構築」の中にあった。
Disc 1──祝祭のファンク、愛とエロスの奔流
「Jam of the Year」から始まる冒頭は、まるで解放を祝うカーニバル。
「Get Yo Groove On」や「Courtin’ Time」では、かつてのプリンスらしいファンクとスウィングが炸裂し、ロージー・ゲインズとの絡みも鮮烈だ。
だけどその快楽は“自由”という名のもとに捧げられたもの。かつて禁じられていた色彩が、ようやく許されたかのように、音が踊る。
Disc 1 全曲紹介
1. Jam of the Year
2. Right Back Here in My Arms
3. Somebody’s
Somebody
4. Get Yo Groove On
5. Courtin’ Time
6. Betcha by Golly Wow!
7. We Gets
Up
8. White Mansion
9. Damned If Eye Do
10. Eye Can’t Make U Love Me
11. Mr.
Happy
12. In This Bed Eye Scream
Disc 2──孤独と祈り、傷ついた魂のラブソング
ここから一気にトーンが変わる。
「Somebody’s Somebody」や「Soul Sanctuary」、そして名曲「I Can’t Make You Love Me」のカバー。
彼はこのディスクで“愛”という名の傷跡を見せてくる。
自分がいかにして「名前」を失い、愛をも、すり減らしながら闘ってきたか──その静けさが、逆に痛々しい。
Disc 2 全曲紹介
1. Sex in the Summer
2. One Kiss at a Time
3. Soul Sanctuary
4. Emale
5. Curious Child
6. Dreamin’ About U
7. Joint 2 Joint
8. The Holy River
9.
Let’s Have a Baby
10. Saviour
11. The Plan
12. Friend, Lover, Sister, Mother/Wife
Disc 3──スピリチュアルな再生、神と世界と向き合う音
「Slave」「The Love We Make」
「One of Us」──。
ここに収められた曲は、ただのラブソングではない。
“名前を捨てた男”が、
最後に問うのは「人間とは何か」「神とは誰か」だ。
特に「My Computer」ではケイト・ブッシュとの
共演で、テクノロジーの孤独と祈りを絶妙に描き出す。
このディスクは、“音の解放”から“魂の解放”へ
と踏み出す、精神的クライマックス。
Disc 3 全曲紹介
1. Slave
2. New World
3. The Human Body
4. Face Down
5. La, La, La Means I Love U
6. Style
7. Sleep Around
8. Da, Da, Da
9. My Computer
10. One of Us
11. The Love We Make
12. Emancipation
評価されなかった美しさ──商業と芸術の狭間で
『Emancipation』は商業的に成功したとは言えない。
全米11位、50万枚超え──プリンスの規模としては控えめな数字だった。
でも、それはこのアルバムが未完成だったからではない。
むしろあまりに“完成”されていたからこそ、リスナーは彼の感情の渦に溺れてしまった。
痛みと救いが複雑に絡み合うこの3時間を、ただのエンタメとして消費するのは難しかったのだ。
──まとめ:「自由」は、いつだって痛みを伴う
『Emancipation』は、私にこう語りかけてくる。
「自由になりたいのなら、すべてを失う覚悟があるか?」と。
愛、名前、居場所、自分であることすら──すべてを手放してでも、なお響かせたい音があるなら、それは“解放”と呼ぶにふさわしい。
あの夜、私が眠れなかったのは、プリンスが投げたその問いに、まだ答えを出せていなかったから。
だけど確かにひとつだけ言える。
このアルバムを聴いた私はもう、かつての私じゃない。
──その証明のように、今夜もまた、最初の一曲から再生してしまう。
この記事のまとめ
- 『Emancipation』は、プリンスが“名前を捨てた”時代を経て、ようやく取り戻した自由の結晶。
- 36曲、3時間におよぶ楽曲には、愛、苦悩、祈り、そして再生が込められている。
- 商業的には成功とは言えないが、芸術的には彼の魂の叫びが凝縮された重要作。
- 聴く者に「あなたにとって自由とは何か?」という根源的な問いを投げかけてくる。

