『アラウンド・ザ・ワールド・イン・ア・デイ』――“ポップの皇帝”プリンスが描いた、音と色彩の桃源郷

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『アラウンド・ザ・ワールド・イン・ア・デイ』――それは、1985年の春に突如として現れた、音の万華鏡。全世界が『パープル・レイン』の熱狂をまだ引きずっていた頃、プリンスはあっさりとその影を脱ぎ捨てて、誰も予想しなかった方向へと歩き出した。

このアルバムには、ダンス・ナンバーもギター・ソロもある。でも、それは“いつものプリンス”ではない。サイケデリックな色彩、異国の風、そしてどこか浮遊感のある哲学的メッセージ。そのすべてが、聴き手の心を旅へと誘う。

この記事では、そんな『アラウンド・ザ・ワールド・イン・ア・デイ』の魅力について、霧島 澪なりの視点でレビューしていきたい。音に宿る思想、色に溶ける情景、そして彼が目指した「世界の果て」の在りかを探して。

この記事を読むとわかること

  • プリンスが本作で描いた音楽的世界観の全体像
  • 全11曲それぞれに込められたテーマと背景
  • 現代だからこそ響く“音の桃源郷”としての意義

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『アラウンド・ザ・ワールド・イン・ア・デイ』とは?プリンスの新たな創造世界

ポップスターではなく、“旅人”としてのプリンス

1984年――プリンスが『パープル・レイン』で世界中を席巻していた頃、その栄光の余韻の中で彼が次に何をするのか、誰もが注目していた。

だが、『アラウンド・ザ・ワールド・イン・ア・デイ』は、そんな期待を裏切るように、いや、見事にすり抜けるようにして生まれた。

煌びやかなシンセ、熱狂的なギター、セクシャルでエネルギッシュなプリンス像はここにはない。代わりに聴こえてくるのは、まるで万国博覧会のような音の混沌と、どこか東洋的な静けさ。

彼は、ポップスターであることを一時的にやめていた。 その代わりに、心の内にある“桃源郷”を探す旅人になったのだ。

サウンドの特徴:サイケデリック×ファンク×中東音楽

アルバム全体を通して感じるのは、1960年代後半のサイケデリックロックの影響だ。とりわけビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』との類似は、ファンの間でも語り草になっている。

冒頭の「Around the World in a Day」から、フルートと中近東風の旋律が柔らかく立ち上がる。パーカッションの多層構造は、聴くたびに新しい“音の小道”を見つけさせてくれる。

このアルバムには、明確なリズムやメロディの快楽よりも、“音そのものの風景”を楽しむような、絵画的なアプローチがある。

どこでもない場所にいて、どこにでも行ける。そんなプリンスからの“音の招待状”が、全編にわたって鳴り響いている。

全収録曲レビュー:音で旅する11の国と感情

1. Around the World in a Day

扉が開く音もしないまま、気がつけば異国に立っている。そんな感覚を与える、幻想的なオープニング。 フィドルのように鳴るストリングス、遠くで鳴るパーカッション、そしてプリンスの声が、地図のない旅を始めさせる。

「Open your heart, open your mind」と繰り返されるフレーズは、単なる歌詞ではなく、“祈り”にも似たものだ。彼はこのアルバムを通じて、聴く者の内面世界を優しく揺さぶろうとしている。

2. Paisley Park

架空の場所“ペイズリー・パーク”。この曲を聴いたとき、私は10代の頃、誰にも教えたくなかった秘密の空き地を思い出した。 雑草の匂い、誰かが落としたボタン、午後の西日――そんな“心の記憶”が、この曲には詰まっている。

音の構成はシンプルながら、どこか夢見がちで、現実と非現実の境界をふわりと溶かす。ペイズリーとは、柄ではなく“概念”なのだと気づかされる。

3. Raspberry Beret

きっと誰の記憶の中にも、“ラズベリー色の何か”がある。 プリンスが描いたのは、憧れと初恋のはざまを彩るような、甘酸っぱくて少し切ない青春。

サビで広がる弦楽の軽やかさ、彼女の「ラズベリーのベレー帽」という存在が、なぜか“もう会えない人”の象徴のように聴こえる。 この曲を聴くとき、私はなぜか、“会わなくなった誰か”を思い出す。

4. Condition of the Heart

ピアノの静かな旋律。プリンスの声が震えるように囁き、心の奥深くをそっと撫でる。 この曲を“聴く”というより、“感じる”と表現したほうが正しいのかもしれない。

孤独、祈り、傷、そしてまだ名前のついていない感情たち。 それらがじわじわと心を満たしていく――まるで、沈黙のあとにくる雨音のように。

5. Tamborine

プリンスが一人で演奏したこの曲は、跳ねるようなリズムと軽快なパーカッションが特徴的です。彼の多才さが光る一曲であり、アルバムの中でも異彩を放っています。

6. America

ファンクのリズムに乗せて、アメリカ社会への風刺を込めた楽曲です。プリンスの社会的な視点が垣間見える一曲で、彼の音楽が単なるエンターテインメントにとどまらないことを示しています。

7. Pop Life

華やかなポップスの裏にある虚しさや孤独を描いた楽曲です。プリンスの鋭い観察眼と繊細な感受性が感じられます。

8. The Ladder

スピリチュアルなメッセージが込められたバラードで、プリンスの父親ジョン・L・ネルソンとの共作です。彼の内面世界を垣間見ることができる深い楽曲です。

9. Temptation

アルバムの締めくくりにふさわしい、情熱的でドラマチックな楽曲です。プリンスのボーカルが際立ち、彼の音楽的な冒険心が感じられます。

なぜ今、『アラウンド・ザ・ワールド・イン・ア・デイ』を聴くべきか

混沌の時代にこそ響く、プリンスの“非現実”

ニュースを開けば、心がざわつく情報ばかりが飛び込んでくる時代。現実の重さに押しつぶされそうになる日々。 そんなとき、プリンスが35年以上前に描いた“非現実”は、むしろ今こそ最も必要な処方箋のように思える。

『アラウンド・ザ・ワールド・イン・ア・デイ』には、現実逃避というより、“もう一つの現実”がある。プリンスが創ったペイズリー・パークは、誰かの痛みや孤独をなかったことにせず、そのまま抱えて歩ける世界だった。

このアルバムは、聴く人に“今ここ”を忘れさせるのではなく、“ここではないどこか”で呼吸を整えさせてくれる――そんな音楽だ。

色と音でできた避難所――“自分の心の桃源郷”を探して

プリンスが描いた桃源郷は、目に見える場所ではない。どこにあるかもわからない。けれど、音を辿っていけば、必ずそこにたどり着く。

ひとりきりで布団にくるまっている夜、仕事に追われて心が擦り減っている昼下がり――そんな瞬間にこそ、このアルバムはそっと隣に寄り添ってくれる。

“自分だけのペイズリー・パーク”を、あなたの中に見つけてほしい。 それは、音と感情と記憶が重なり合ってできた、世界で一番やさしい逃げ場所だ。

まとめ:『アラウンド・ザ・ワールド・イン・ア・デイ』は、聴く者の“内なる世界旅行”を促すアルバム

『アラウンド・ザ・ワールド・イン・ア・デイ』は、単なるポップアルバムではない。そこには、時代やジャンルを超えて響く“旅の哲学”がある。

プリンスは言葉で地図を描き、音で空気をつくり、聴く人の心に小さなパスポートをそっと差し出してくれた。 旅先は明示されていない。ただ、それが“あなた自身の内面”であることだけが確かだ。

混乱した世界の中で、自分を見失いそうな日々。 そんな時にこそ、私はこのアルバムを手に取る。プリンスが残してくれたこの旅路を、何度でも、最初から。

この記事のまとめ

  • 『パープル・レイン』後の大胆な方向転換
  • サイケデリックと異国情緒が織りなす音世界
  • ペイズリー・パークに込められた心の自由
  • 全11曲それぞれに旅と感情の物語がある
  • 音楽を通して内面を旅するアルバム構造
  • 現代社会における“非現実”の重要性
  • 混沌の時代に響く、静かな思想と祈り
  • プリンス流スピリチュアリティの形
  • 音と記憶がつくる“自分だけの桃源郷”
  • 今こそ聴き返したい普遍的な音の旅路
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あの曲と、あの瞬間|心に残る音楽日記
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