『ザ・ビートルズ・アンソロジー Vol.3』は、ビートルズが解散に向かう過程で生まれた貴重な音源を収めたアルバムです。幻の未発表曲集『セッションズ』がお蔵入りとなり、日の目を見なかった楽曲の数々が、この『アンソロジー Vol.3』を通じて私たちの耳に届くことになりました。
本記事では、『アンソロジー Vol.3』の背景や収録曲、ファン必聴のトラック、そしてアルバムに込められた想いについて徹底解説します。さらに、新曲として予定されながら完成しなかった“Grow Old With Me”や“Now And Then”、PaulとGeorgeが共作したと言われる“All for Love”のエピソードにも触れながら、このアルバムが持つ特別な価値を掘り下げていきます。
この記事を読むとわかること
- 「ザ・ビートルズ・アンソロジー Vol.3」の全収録曲と解説
- 幻のアルバム「セッションズ」と未発表曲の背景
- ジョン不在の最後のセッションが持つ意味

『ザ・ビートルズ・アンソロジー Vol.3』に収録された未発表曲の魅力とは?
『ザ・ビートルズ・アンソロジー Vol.3』には、かつて未発表だった楽曲が数多く収録されています。
特に、「While My Guitar Gently Weeps」のアコースティック・デモや、「Not Guilty」などは、ファンの間でも高い人気を誇る楽曲です。
これらの曲は、ビートルズのレコーディング風景を垣間見ることができ、彼らの創作過程や試行錯誤が感じられる貴重な音源です。
『セッションズ』ではお蔵入りとなった楽曲たちが、この『アンソロジー Vol.3』で初めて公式リリースされ、多くのファンにとって「新たな発見」となる特別な体験となりました。
特に「Come and Get It」は、ポール・マッカートニーがデモとして録音したバージョンで、後にバッドフィンガーによってヒットした曲の原型であり、ポールの多才さを改めて感じさせます。
また、ジョージ・ハリスンの「All Things Must Pass」も非常に印象的です。
のちに彼のソロ作品として広く知られるこの曲の初期バージョンを聴けることは、ビートルズファンにとって大きな喜びです。
これらの未発表曲は、単なるデモ音源というだけではなく、ビートルズが何を目指していたのか、どのように音楽を作り上げていったのかという背景を理解する上で非常に重要な資料でもあります。
「アンソロジー Vol.3」を聴き込むことで、ビートルズの解散前の複雑な心情や、メンバー同士の関係性、そして音楽への情熱を感じ取ることができるのです。
このアルバムを通じて、ファンはビートルズの未発表曲に込められた物語を深く味わうことができ、改めて彼らの音楽の奥深さに感動するはずです。
全収録曲とその解説
『ザ・ビートルズ・アンソロジー Vol.3』には、1968年~1970年にかけての未発表音源やデモ、別テイクがたっぷりと詰め込まれています。以下では、その全収録曲を一曲ずつ解説し、曲の背景や魅力をお伝えします。
Disc 1
- A BEGINNING – ジョージ・マーティンによるオーケストラ小品で、元は「Don’t Pass Me By」の序章として作られた。
- HAPPINESS IS A WARM GUN – ジョンの独特な歌詞とメロディのデモ。オリジナルとは異なるアレンジが新鮮。
- HELTER SKELTER – ハードで荒々しい演奏が印象的な別テイク。
- MEAN MR. MUSTARD / POLYTHENE PAM / GLASS ONION – アビイ・ロードやホワイト・アルバム期の未発表テイク群で、曲の成長過程が見える。
- JUNK – ポールのアコースティックなデモ、後にソロ作に収録される珠玉の一曲。
- PIGGIES / HONEY PIE / DON’T PASS ME BY – ホワイト・アルバムの楽曲たちの未発表テイクで、アレンジや歌い方の違いが楽しい。
- OB-LA-DI, OB-LA-DA – 楽しく明るい曲調の別バージョン。
- GOOD NIGHT – 優しいストリングスが印象的な別テイク。
- CRY BABY CRY / BLACKBIRD / SEXY SADIE – ジョンやポールの繊細な歌声が際立つデモや別テイク群。
- WHILE MY GUITAR GENTLY WEEPS – ジョージの弾き語りデモで、エリック・クラプトンのギターがないシンプルな美しさが光る。
- HEY JUDE – 名曲のリハーサル音源。臨場感がある。
- NOT GUILTY – ハリスン作の未発表曲で、ファンからの評価が高い。
- MOTHER NATURE’S SON / ROCKY RACCOON / WHAT’S THE NEW MARY JANE – 実験的な試みが感じられる音源も含まれる。
- STEP INSIDE LOVE / LOS PARANOIAS – セッションの中での遊び心溢れるメドレー。
- I’M SO TIRED / I WILL / WHY DON’T WE DO IT IN THE ROAD? / JULIA – ジョンやポールのパーソナルな表現が魅力。
Disc 2
- I’ve Got a Feeling / She Came In Through the Bathroom Window / Dig a Pony – 『Let It Be』セッションからのアウトテイクで、ライブ感が強い。
- Two of Us / For You Blue / Teddy Boy – リラックスした雰囲気とジョージのブルース色が心地よい。
- Medley: Rip It Up / Shake, Rattle and Roll / Blue Suede Shoes – ロックンロールナンバーのカバーで、ビートルズがルーツに回帰した瞬間を聴ける。
- The Long and Winding Road – オーケストラなしのバージョンで、シンプルな美しさが引き立つ。
- Oh! Darling / All Things Must Pass / Mailman, Bring Me No More Blues – ハリスンの名曲や珍しいカバーが光る。
- Get Back / Old Brown Shoe / Octopus’s Garden – メンバーの個性が出た楽曲群。
- Maxwell’s Silver Hammer / Something / Come Together – 名曲の別テイクが収録され、完成形と聴き比べるのも楽しい。
- Come and Get It – ポールのデモで、バッドフィンガーのヒット曲の原型。
- Ain’t She Sweet – 1950年代の古典的楽曲のカバー。
- Because / Let It Be / I Me Mine / The End – 最後期のセッションからの珠玉の曲たちで、ビートルズの終幕を感じさせる。
これらの楽曲は、未発表音源ながらビートルズの創作過程の奥深さと音楽に対する情熱を鮮やかに伝えてくれます。『アンソロジー Vol.3』は、ただのアーカイブではなく、ビートルズという偉大なバンドの生きた証なのです。
幻のアルバム『セッションズ』とは何だったのか
1985年、ビートルズの未発表音源をまとめたアルバム『セッションズ(Sessions)』のリリース計画が進められていました。このアルバムは、1970年の解散後に残された数々のアウトテイクや未発表曲を収めたもので、当時のプロデューサーであるジェフ・エメリックが編集を担当していました。
しかし『セッションズ』は、メンバーの意向や楽曲の完成度に対する懸念から発売直前で中止され、幻のアルバムとしてその存在を歴史の影に隠すことになります。その背景には、ジョン・レノンの死後、未発表音源を商品化することへの慎重な姿勢や、「ビートルズの未完成品を世に出すこと」に対するファンやメンバーの複雑な思いがあったと言われています。
それでも、その後の『アンソロジー』プロジェクトによって、『セッションズ』に収録予定だった曲のほとんどが正式に世に出ることとなりました。つまり『アンソロジー Vol.3』は、かつて幻となった『セッションズ』の楽曲群が、時を超えて私たちのもとに戻ってきたアルバムでもあるのです。
『セッションズ』がお蔵入りになったことで一度は埋もれた曲たちが、30年の時を経て『アンソロジー』として蘇った。この事実そのものが、ビートルズというバンドが持つ「終わりなき物語」を象徴しているのではないでしょうか。
「Grow Old With Me」「Now And Then」など未完成曲の背景
『アンソロジー Vol.3』の制作において、当初はジョン・レノンが残した「Grow Old With Me」を完成させ、アルバムに収録する予定でした。この曲はジョンが晩年に書いた愛のバラードで、ポールとジョージはジョンの声を蘇らせるべく、デモのクリーニングと補作を試みました。しかし、テープの状態が悪く、技術的な問題から十分なクリーニングができず、完成には至りませんでした。
代わりにポールとジョージは「All for Love」という新曲を共作し、ビートルズとしての新たな楽曲を作り上げました。これは「フリー・アズ・ア・バード」や「リアル・ラヴ」に続く「3作目の新曲」として計画されたものです。しかし、途中でヨーコ・オノから新しいジョンのデモテープが届き、そこに収められていた「Now And Then」を聴いたポールがその曲を気に入り、新たにレコーディングを開始しました。
ところが、この「Now And Then」もデモ音源のノイズが深刻で、技術的なクリーニングが難航。さらにジョージがこの曲の完成に乗り気ではなかったこともあり、レコーディングは頓挫してしまいました。結果的に「Grow Old With Me」も「Now And Then」も、「All for Love」も、いずれも完成には至らず、代わりに『アンソロジー Vol.3』には「A BEGINNING」が収録されることになったのです。
「All for Love」の謎と収録されなかった理由
「All for Love」は、ポール・マッカートニーとジョージ・ハリスンが共作したと言われる幻の楽曲です。『アンソロジー Vol.3』の制作にあたり、ジョン不在の中で「新たなビートルズ曲」を生み出そうとする試みの中で生まれた曲でした。
ポールとジョージがスタジオで共作を行ったという情報は一部関係者の証言に基づいていますが、正式な音源が世に出ることはなく、曲の全貌は明らかになっていません。なぜ「All for Love」が収録されなかったのか、その理由は複数あります。
一つは、ポールとジョージが「All for Love」を制作していた最中に、ヨーコ・オノからジョンの未発表デモ「Now And Then」のテープが届いたことです。ポールはこの「Now And Then」に強い関心を示し、ジョージやリンゴと共に完成を目指し始めました。しかし、前述の通り、デモ音源のノイズやジョージの消極的な姿勢によって、最終的に「Now And Then」の制作は中断されます。
この混乱の中で「All for Love」の制作も自然消滅し、幻の楽曲となったのです。結局、ポールとジョージが残した「All for Love」は、公式には未発表のまま、ビートルズの物語の中に埋もれてしまいました。
この「All for Love」の存在は、ビートルズが解散後も「4人での再生」を夢見ていた一瞬の希望のようにも思えます。その未完成の痕跡は、私たちに「もしも」を想像させる余白を残しているのです。
イーシャー・デモから1970年のセッションまでの流れ
『アンソロジー Vol.3』に収められた音源は、1968年のイーシャー・デモから1970年の最後のセッションまで、ビートルズが駆け抜けた音楽の旅路を鮮明に映し出しています。
1968年5月、ジョージ・ハリスンの自宅「キンファウス」で録音されたイーシャー・デモは、ジョン、ポール、ジョージ、リンゴの4人が新曲のアイディアを持ち寄り、リラックスした空気の中で互いに演奏を重ねた貴重なセッションです。ここから『ホワイト・アルバム』の楽曲が芽吹き、「Julia」や「Blackbird」、「While My Guitar Gently Weeps」など、多くの名曲の原型が生まれました。
その後、1969年1月には「ゲット・バック・セッション(後の『Let It Be』セッション)」が行われ、ビートルズはスタジオの中で、時に衝突しながらも創作に挑み続けました。そして、同年夏には、4人全員が参加する最後のアルバム『アビイ・ロード』の録音が行われ、ビートルズの歴史における「最後の光」が記録されます。
そして1970年1月3日と4日、ジョン・レノンが不在の中で、ポール、ジョージ、リンゴの3人が集まり、ビートルズ最後のセッションが行われました。ここでは、グリン・ジョンズがまとめていた「ゲット・バック・セカンド・エディション」のために、「I Me Mine」の新規録音と、「Let It Be」のギターソロの録音し直しが行われました。特に「I Me Mine」は、後に公開された『Let It Be』のテレビ・フィルムにも使用されることが決まっていたため、映像と音を揃える必要があったのです。
こうして『アンソロジー Vol.3』には、イーシャー・デモのあたたかな時間から、ゲット・バック・セッションの混沌、そしてジョン不在のラスト・セッションまで、ビートルズの終章を刻んだ多層的な記録が収められています。まるで一つの時代が幕を閉じる、その瞬間の音を聴いているかのようです。
ジョン不在のセッションが意味するもの
1970年1月3日と4日、ジョン・レノン不在の中で行われたビートルズ最後のセッション。その事実は、単なる録音作業以上の意味を持っています。
「I Me Mine」の新録音は、もともと『Let It Be』の映画に収録されることが決まっていたため、映像に合わせるための作業として必要だったものでした。しかし、そこにジョンがいなかったこと──その事実が、ビートルズというバンドがすでに「4人の音楽」ではなくなっていたことを象徴しています。
「Let It Be」のギターソロ録音もまた同様で、ジョン不在のまま、ポール、ジョージ、リンゴの3人で作業が進められました。この時、ビートルズはもはや「バンド」として機能しておらず、過去の記録を完成させるための義務感のような空気が漂っていたのかもしれません。
それでも、彼らは音楽を作り続けた。ジョンがいないスタジオに響く音は、決して「3人でのビートルズ」を新たに作り直そうとするものではなく、「終わりに向かうバンドが、最後の仕事を静かに片付けていく時間」そのものだったのでしょう。
ジョンがいない録音──それはビートルズという奇跡が、確かに終わりを迎えた証であり、同時に、彼らが残した音楽が「未完成のままでも、愛され続ける」ということの象徴でもあるのです。
「アンソロジー」シリーズ全体との関係性
『ザ・ビートルズ・アンソロジー Vol.3』は、全3部作の最終章として位置づけられています。このシリーズは、ビートルズというバンドが歩んだ軌跡を、未発表音源や映像、インタビューを通じて包括的に描き出した一大プロジェクトでした。
『Vol.1』は、リヴァプール時代からハンブルクでの演奏、デビュー初期の熱気あふれるパフォーマンスを収め、ビートルズが誕生した瞬間を記録しています。
『Vol.2』では、『ラバー・ソウル』や『リボルバー』、『サージェント・ペパーズ』、そして『マジカル・ミステリー・ツアー』期のセッションを中心に、スタジオでの創作の深化と、バンドとしての進化を映し出しました。彼らが実験と挑戦を重ね、音楽を芸術として昇華させていく過程がここに詰まっています。
そして『Vol.3』は、1968年のイーシャー・デモから『ホワイト・アルバム』、そして『ゲット・バック』や『アビイ・ロード』セッションに至るビートルズ後期の創作記録が中心です。そこには、解散が目前に迫る中での複雑な人間関係や、音楽への情熱と葛藤が交錯する時間が刻まれています。
「アンソロジー」シリーズ全体を通して見えてくるのは、ビートルズという存在がただのバンドではなく、時代と共に変化し、成長し、時には壊れながらも新たな音楽を生み出し続けた「生きた物語」だったということです。そして『Vol.3』は、その物語の最後のページ。終わりゆくビートルズの音が、静かに、しかし確かに、私たちの胸に響きます。
『ザ・ビートルズ・アンソロジー Vol.3』まとめ|幻の曲たちが語るビートルズの終章
『ザ・ビートルズ・アンソロジー Vol.3』は、ビートルズという伝説のバンドが「終わり」に向かう、その足跡を記録したアルバムです。イーシャー・デモの無邪気さ、ゲット・バック・セッションの混沌、そしてジョン不在の中で行われた最後のセッションの静けさ。これらの断片が織りなす音の風景は、まるで一つの物語の最終章を読み進めているかのような感覚を与えてくれます。
幻のアルバム『セッションズ』としてお蔵入りとなった楽曲たちが、長い時を経て『アンソロジー Vol.3』で私たちの耳に届く──その事実だけでも、このアルバムの価値は計り知れません。「Grow Old With Me」「Now And Then」「All for Love」といった未完成の夢が残した余白も含め、ビートルズの創作の旅は決して「完璧」ではなく、むしろ「未完成」であるがゆえに、より私たちの心を打つのです。
『アンソロジー Vol.3』は、ただの未発表曲集ではありません。それは、ビートルズが「終わり」と向き合い、なお音楽を鳴らし続けた記録であり、私たちがビートルズの音楽を聴き続ける理由を、そっと教えてくれるアルバムです。
時を超えて語りかけてくる幻の曲たちと向き合うとき、私たちはただ「過去」を振り返るのではなく、自分自身の人生の物語をも重ね合わせているのかもしれません。ビートルズの音楽は、終わることのない物語として、これからも私たちの胸に響き続けるのでしょう。
この記事のまとめ
- 『アンソロジー Vol.3』はビートルズの終章を記録
- 幻のアルバム『セッションズ』の楽曲がここで復活
- 「Grow Old With Me」など未完成曲の背景が語られる
- ジョン不在の最後のセッションの意味を紐解く
- イーシャー・デモから最後までの流れが理解できる
- 『アンソロジー』シリーズ全体との関連が整理できる
- 未発表曲からビートルズの創作の姿が垣間見える
- ビートルズの「終わり方」に込められた想いを知る

