1986年に突如リリースされたチャリティLP『リヴ・イン・ワールド』は、アンチ・ドラッグ・プロジェクトの名のもとに制作された異色のアルバムです。
この作品には、ポール・マッカートニーやリンゴ・スター、エルヴィス・コステロなど豪華アーティストが参加しながらも、世間で大きく話題になることはありませんでした。
本記事では、『リヴ・イン・ワールド』が誕生した背景から、参加アーティスト、収録曲の見どころ、そして現在の入手事情までを徹底的に解説します。
- チャリティLP『リヴ・イン・ワールド』の制作背景と目的
- ポール・マッカートニーやリンゴ・スターら豪華参加アーティストの詳細
- 日本盤の存在や現在の入手難易度とコレクター価値
『リヴ・イン・ワールド』とは?その目的とプロジェクトの背景
1986年にイギリスで発足したアンチ・ドラッグ・プロジェクトは、薬物乱用に対する社会的関心の高まりを受けて立ち上がりました。
その活動の一環として制作されたのが、チャリティLP『リヴ・イン・ワールド(It’s A Live-In World)』です。
本作は、ポップやロックのアーティストたちが集い、薬物撲滅のメッセージを音楽という形で発信することを目的としています。
当時のイギリスでは、ヘロインを中心とした薬物問題が深刻化しており、若年層の間でもその危険性が懸念されていました。
このような社会情勢の中で、「音楽の力で意識を変える」という目的のもと、政府や教育関係者も協力する形でこのプロジェクトが始動したのです。
一般的なチャリティソングと異なり、本作は全曲がアンチ・ドラッグに焦点を当てたテーマ性を持っている点が非常に特徴的です。
プロデューサーはチャーリー・フォスケット(Charley Foskett)で、構想から制作、リリースまでをEMIが全面支援しました。
特筆すべきは、単なる1曲のシングルではなく、2枚組LPで30曲近い収録曲を通して明確なメッセージを伝えている点です。
これほど大規模かつ思想的な音楽プロジェクトは、当時としても非常に異例であり、今なお「幻のチャリティLP」として語り継がれています。
参加アーティストが豪華すぎる!注目の顔ぶれを紹介
『リヴ・イン・ワールド』の最大の魅力は、錚々たるメンバーが一堂に会している点です。
1980年代を代表するポップ/ロックアーティストたちが、ジャンルやレーベルの垣根を越えて参加しています。
当時の音楽シーンの縮図のような構成は、今振り返るとまさに夢の共演とも言えるでしょう。
まず最も注目すべきは、ポール・マッカートニーとリンゴ・スターというビートルズのメンバーが揃って参加している点です。
ポールは「Simple As That」という未発表曲を提供し、後に『Pipes of Peace』のボーナストラックとしてCD化されました。
リンゴ・スターは「You Know It Makes Sense」や、ジョン・クリーズらとのコミカルなトラック「Naughty Atom Bomb」にも参加しており、彼らの関与はプロジェクト全体の信頼性と話題性を高めることになりました。
そのほかにも、エルヴィス・コステロ、キム・ワイルド、ホリー・ジョンソン、デイヴ・スチュワート&バーバラ・ガスキンなど、イギリスを代表する実力派アーティストが多数参加しています。
特にキム・ワイルドは複数曲でフィーチャーされており、プロジェクトに対する積極的な姿勢がうかがえます。
さらに、ロック・バンドのサクソンやニュー・モデル・アーミーといった異色の参加もあり、幅広い層へのメッセージ発信を意識していたことが感じられます。
このように、『リヴ・イン・ワールド』は単なる音楽企画にとどまらず、社会的意義に共鳴したアーティストたちの強い意思表示の場でもあったのです。
アーティスト個々の魅力と、全体の統一感が絶妙にブレンドされたこのLPは、まさに時代の証言とも言える存在です。
『リヴ・イン・ワールド』の収録曲とそのメッセージ性
『リヴ・イン・ワールド』は、全30曲近くを収録した2枚組LPで、すべての楽曲が「薬物の危険性」や「社会とのつながり」をテーマにしています。
ただのコンピレーションではなく、作品全体で一つの物語を紡いでいるとも言えるほど、構成にも工夫が凝らされています。
各曲が異なる視点でドラッグ問題に切り込み、聞き手の意識を揺さぶる構成になっているのが特徴です。
たとえば、ポール・マッカートニーの「Simple As That」は、一見穏やかなポップチューンながらも、「選択はシンプルであるべきだ」という強いメッセージが込められています。
リンゴ・スターの「You Know It Makes Sense」では、聴き手に対して直球の説得力ある語りかけが展開されており、ナレーションに近い形式で若年層に訴えています。
また、エルヴィス・コステロが歌う「The End of the Rainbow」では、失われた希望や依存の裏側にある現実を静かに描いており、アルバム全体に深みを与えています。
一方で、「Don’t Use Drugs」や「Smack」など、直球で警告的なタイトルの楽曲も多数収録されており、そのバランスがまた絶妙です。
メッセージ性の強さだけでなく、シンセポップ、ロック、バラードなど多彩なジャンルの楽曲が収録されている点も、このLPの魅力のひとつです。
音楽を通して社会的課題に向き合うという試みが、聴き手の心に強く響く、まさに意義深いアルバムと言えるでしょう。
収録曲全曲紹介|ディスク別ガイド
『リヴ・イン・ワールド』は2枚組LP構成で、全4面・全30曲におよぶコンセプトアルバムです。
ここでは全収録曲をディスクごとに整理し、それぞれの内容とメッセージ性に触れながら、見どころを紹介します。
ディスク1(A面)|導入と問題提起のセクション
- Smack:Lizzy Welchによる、ヘロイン依存の現実を突きつける衝撃のオープナー。
- Cold Turkeying:Sarah Milesが演じるドラッグ離脱の苦悩を描いた語り。
- Hot Line:Chris Suttonによる支援ホットラインの必要性を訴えるアップビート曲。
- The End Of The Rainbow:Elvis Costelloが歌う、希望なき未来への警告。
- Live-In World:全参加者が集結するテーマソング。団結と共感の象徴。
- It’s Not Easy:Bonnie Tylerのハスキーな歌声で描く、依存からの脱却の難しさ。
- Don’t Use Drugs:Jonno & Dennisによる直接的なメッセージ。シンプルだからこそ力強い。
- The Needle And The Damage Done:Pete WylieとIcicle Worksがニール・ヤングの名曲をカバー。中毒の破壊力を静かに訴える。
ディスク2(B面)|心理描写と希望の光
- Freak Street:Charley Foskettによるサイケで不安定なトラック。心の揺らぎを表現。
- Scagg:同じくCharley Foskettによる中毒者の幻覚的世界。
- Suspended Pool:Hayley MillsとDave Evansが、閉塞感と無力感を幻想的に描写。
- Something Better:Precious Wilsonら4人によるソウルフルな希望の讃歌。
- You Know It Makes Sense:Ringo Starrの語り口が印象的な、良識へのアピール。
- Waiting In The Dark:Precious Wilsonが光を待つ心情を情熱的に歌い上げる。
- The World Spins So Slow:Dave Stewart & Barbara Gaskinの美しいバラード。時間の重みを感じさせる。
- Slay The Dragon:Holly Johnsonが唱える“戦うべき敵”としてのドラッグ。
ディスク3(C面)|選択と行動へのメッセージ
- Simple As That:Paul McCartneyの未発表曲。選ぶべき道は実はシンプルだと語る。
- Naughty Atom Bomb:Ringo Starrらのユーモア溢れる警告曲。中毒と破壊の愚かさを皮肉る。
- Candles:Chris Reaによる、亡くなった者たちへの追悼と祈り。
- Head Full Of Shadows:Boonによる、心に巣食う闇のメタファー。
- Aqua:Eurythmicsの幻想的な音像が心の混乱を表現。
- We Came Here To Rock:Saxonが力強く「生きる目的」を歌うメタル・ナンバー。
- Heroin:New Model Armyが怒りと悲しみを込めて叫ぶ、ドラッグとの戦い。
ディスク4(D面)|再生・支援・未来へ向けて
- Little Bit Of Snow:Howard Jonesが描く再生への第一歩。柔らかなメッセージが心に響く。
- Never Never:Feargal Sharkeyによる、決して戻らない日々への哀愁と決意。
- Hooked On Love:Bananaramaが届ける“愛にこそ依存すべき”という逆説的な提案。
- The Man’s Too Strong:Dire Straitsによる、内面の葛藤と闘争心を描いたロック。
- Blue (Armed With Love):Wham!の隠れたメッセージソング。愛を武器に未来へ向かう。
- Magical:Bucks Fizzが歌う、魔法のような人生の再構築への希望。
- She’s Gonna Love Ya To Death:John Parrのパワーバラードで幕を閉じる、強烈な愛と救済。
日本盤は存在する?『リヴ・イン・ワールド』の流通と入手難易度
『リヴ・イン・ワールド』は、1986年にイギリスEMIからリリースされたチャリティLPですが、日本盤も「東芝EMI」より正規リリースされていました。
カタログ番号はEMS-91514で、帯付きの初回盤は非常に希少です。
ジャケット裏面にはリンゴ・スターの写真が掲載されており、日本独自の仕様が一部確認できます。
とはいえ、本作は当時も大きな話題になることがなく、チャート入りやメディア露出もほとんどありませんでした。
そのため一般的な知名度は極めて低く、中古市場でも見かける機会はごくわずかです。
とくにコンディションの良いものや帯付きの完品は、日本国内のマニア間でのみ流通する“幻のアイテム”として扱われています。
海外ではDiscogsを中心に一定数出回っており、欧州版・ギリシャ版・メキシコ版・ブラジル版・日本版など、様々なプレスが存在します。
その中でも日本盤は特に数が少なく、コレクターズ・アイテムとしての価値が年々上昇中です。
価格帯は状態によりますが、帯付き美品であれば1万円を超えるケースも珍しくありません。
また、CD化は一度もされておらず、現状で本作を正規で聴く手段はアナログ盤のみとなっています。
SpotifyやApple Musicなどのストリーミングでも配信されていないため、アナログ環境を整えて聴く価値がある稀有な作品といえるでしょう。
アンチ・ドラッグ・プロジェクト『リヴ・イン・ワールド』の意義を今こそ見直す
1986年当時、薬物問題は個人の問題としてではなく、社会全体で取り組むべき課題として捉えられ始めていました。
その中で制作された『リヴ・イン・ワールド』は、音楽を通じて人々の意識を変えることを目的とした社会的メッセージ・プロジェクトでした。
チャリティや啓発活動に音楽が果たせる役割を、改めて考えさせられる内容となっています。
現代においても、依存症やメンタルヘルスの問題はより複雑化し、SNS時代の新たな形で拡がりを見せています。
そんな今だからこそ、このアルバムに込められた「選ぶことの大切さ」「共感と支援の必要性」といったメッセージは、再び光を当てられるべきでしょう。
ドラッグにNOを突きつける勇気、そして他者を想う気持ち――それらを音楽という共通言語で広げようとした本作の意義は、決して過去のものではありません。
また、アーティスト自身がこうした社会問題に立ち向かう姿勢を見せることで、ファンとの信頼関係を深め、音楽を超えた影響力を発揮するという点も見逃せません。
ポール・マッカートニーやリンゴ・スターをはじめ、参加者の一人ひとりが「届けるべきメッセージ」を真剣に発信していたことは、エンターテインメントと社会貢献の融合の好例ともいえるでしょう。
今こそ、『リヴ・イン・ワールド』をただのレア盤ではなく、意志と行動の詰まった歴史的ドキュメントとして再評価すべき時期に来ているのです。
アンチ・ドラッグ・プロジェクト『リヴ・イン・ワールド』の魅力と歴史を総まとめ
『リヴ・イン・ワールド』は、単なるチャリティアルバムではなく、社会に対する警鐘と未来への希望を詰め込んだ壮大なメッセージプロジェクトでした。
1986年という時代背景の中で生まれ、ドラッグ問題に真正面から向き合ったその姿勢は、現在でも色あせることなく私たちに問いかけ続けています。
このように多ジャンル・多世代のアーティストが結集した作品は、今後もそう簡単には生まれないと断言できるでしょう。
ポール・マッカートニー、リンゴ・スター、エルヴィス・コステロ、キム・ワイルド、ホリー・ジョンソン……
当時のトップミュージシャンたちが自らの声で訴えた反ドラッグのメッセージは、彼らのキャリアにおける重要な一幕でもあります。
加えて、全30曲にわたる内容は、心理・社会・希望の3段階にわたるドラマチックな構成で展開され、リスナーの内面にも深く刺さる力を持っています。
また、日本盤が存在しながらも市場であまり注目されなかった経緯から、「幻のチャリティLP」としての価値も確立されつつあります。
ストリーミング化されないからこそ、アナログ盤の持つ情報量と音の温度を通じて体験することが求められる作品です。
今だからこそ再発見すべき一枚――それが『リヴ・イン・ワールド』なのです。
- 『リヴ・イン・ワールド』は1986年発のチャリティLP
- 薬物撲滅を目的に制作された社会派音楽プロジェクト
- ポールやリンゴを含む豪華アーティストが多数参加
- 全30曲が反ドラッグをテーマに構成された意欲作
- 日本盤(東芝EMI盤)は入手困難なレアアイテム
- ストリーミング未対応でアナログ盤のみが現存
- 時代を超えて再評価されるべきメッセージ性

