1987年に発表されたジョージ・ハリスンのアルバム『クラウド・ナイン』は、
彼のソロキャリア後期を代表する名盤として高く評価されています。
本作は単なるヒット作にとどまらず、どこか懐かしい「ビートルズ的感覚」を感じさせる作品として、
長年ファンの間で語り継がれてきました。
なぜ『クラウド・ナイン』は、80年代という時代において、
ここまで普遍的な魅力を放つアルバムとなったのでしょうか。
本記事では、楽曲・制作背景・音楽性の視点から、
ジョージ・ハリスンのソロ後期における到達点を考察していきます。
- 『クラウド・ナイン』に宿るビートルズ的感覚と音楽的特徴!
- 代表曲・PV・全収録曲から読み解く名盤としての完成度!
- 成功がジェフ・リンと『The Beatles Anthology』へつながった背景!
ジョージ・ハリスンのソロ後期と『クラウド・ナイン』の位置づけ
1987年に発表されたジョージ・ハリスンのアルバム『クラウド・ナイン』は、
彼の長いソロキャリアの中でも特別な意味を持つ作品です。
ビートルズ解散後の成功と停滞、そのすべてを経験した末に生まれた本作は、
ソロ後期の転換点として語られることが多くあります。
ここではまず、ジョージ・ハリスンのキャリア全体を俯瞰しながら、
『クラウド・ナイン』がどのような位置づけにあるのかを整理します。
収録曲全曲紹介|アルバム『クラウド・ナイン』楽曲ガイド
1987年に発表された『クラウド・ナイン』は、
ジョージ・ハリスンのソロ後期を象徴する全11曲構成のスタジオ・アルバムです。
ここでは、収録曲を曲順どおりに整理し、
それぞれの背景や聴きどころを簡潔に紹介します。
アルバム本編|Cloud Nine(1987)
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クラウド・ナイン – Cloud 9:アルバムの幕開けを飾る軽快なナンバーで、
80年代的なポップ感覚とジョージらしい温かさが共存する導入曲。 -
ザッツ・ホワット・イット・テイクス – That’s What It Takes:
ジェフ・リン、ゲイリー・ライトとの共作によるミディアム・テンポ曲。
人生に必要な覚悟を静かに語る成熟した歌詞が印象的。 -
フィッシュ・オン・ザ・サンド – Fish On The Sand:
乾いたリズムと皮肉の効いた歌詞が特徴のロックナンバー。
メディアや権力構造への批評性が込められている。 -
ジャスト・フォー・トゥデイ – Just for Today:
「今日という一日」を大切に生きる姿勢を歌った内省的楽曲。
ジョージ・ハリスンの精神性が色濃く反映された一曲。 -
ディス・イズ・ラヴ – This Is Love:
ジェフ・リンとの共作による、明快で開放的なポップソング。
愛という普遍的テーマを肯定的に描く。 -
FAB – When We Was Fab:
ビートルズ時代をユーモラスに振り返る自己言及ソング。
PVにはリンゴ本人と、ウォルラス姿のポールを想起させる演出が登場。 -
デヴィルズ・レイディオ – Devil’s Radio:
噂話やゴシップを「悪魔の電波」に例えた社会風刺曲。
鋭い視点とキャッチーなサウンドが共存する。 -
サムプレイス・エルス – Someplace Else:
現実からの逃避願望を描いた軽快なロックナンバー。
アルバム後半のテンポ感を保つ役割を担っている。 -
金星の崩壊 – Wreck of the Hesperus:
伝承的な物語をモチーフにした異色作。
フォーク的要素と寓話性が際立つ楽曲。 -
ブレス・アウェイ・フロム・ヘヴン – Breath Away from Heaven:
短くも美しいバラード。
天国的イメージと安らぎがアルバムに余韻を残す。 -
セット・オン・ユー – Got My Mind Set On You:
アルバム最大のヒット曲。
2種類のPVが制作され、
商業性と遊び心を両立した象徴的ナンバーとなった。
停滞からの復活作としての意味
70年代前半、ジョージ・ハリスンはソロアーティストとして大きな成功を収めました。
しかしその後、音楽業界の変化や自身の価値観の変遷もあり、
80年代初頭には作品発表の間隔が空き、評価も安定しない時期を迎えます。
そうした流れの中で制作された『クラウド・ナイン』は、
キャリアの停滞を打ち破る復活作として強いインパクトを持って登場しました。
特にシングルヒットによって、ジョージ・ハリスンの名が再び広く知られるようになります。
単なるヒット回帰ではなく、
音楽的成熟を伴った再評価であった点が、
このアルバムを特別な存在にしています。
1987年という時代背景
『クラウド・ナイン』が発表された1987年は、
MTVを中心としたビジュアル重視の音楽が主流となっていた時代です。
多くのベテランアーティストが方向性に迷う中で、
ジョージ・ハリスンは自分の強みを冷静に見極めていました。
それは、派手な演出や過剰なサウンドではなく、
普遍的なメロディと楽曲の完成度を前面に押し出すことでした。
この選択が、結果として時代を超える作品性につながっています。
1987年という文脈で聴くと、『クラウド・ナイン』は
流行に抗いながらも現代性を失わなかった稀有なアルバムであり、
ジョージ・ハリスンのソロ後期を象徴する一枚として位置づけることができます。
『クラウド・ナイン』に感じるビートルズ的感覚
『クラウド・ナイン』を聴いて多くのリスナーが感じるのが、
どこか懐かしいビートルズ的な空気感です。
それは露骨な引用や再現ではなく、
自然ににじみ出る感覚としてアルバム全体に漂っています。
ここでは、その「ビートルズ的感覚」がどこから生まれているのかを、
音楽的な視点から掘り下げていきます。
メロディ重視の楽曲構成
『クラウド・ナイン』の楽曲に共通しているのは、
シンプルで耳に残るメロディが中心に据えられている点です。
これは、ビートルズ時代からジョージ・ハリスンが大切にしてきた作曲姿勢でもあります。
複雑な構成や技巧を前面に出すのではなく、
メロディとコード進行の美しさで聴かせる手法は、
ビートルズ中後期の楽曲群とも共通する感覚と言えるでしょう。
その結果、『クラウド・ナイン』は80年代的なサウンドでありながらも、
時代を超えて聴ける普遍性を獲得しています。
「Got My Mind Set On You」に存在する2種類のミュージックビデオ
「Got My Mind Set On You」が特別な存在である理由の一つに、
2種類のミュージックビデオが制作されたという点があります。
これは当時としても異例であり、
この楽曲がいかに重要視されていたかを物語っています。
一つ目は、ジョージ・ハリスンが部屋の中で演奏するシンプルなパフォーマンス主体のPVです。
周囲の家具や装飾品が突然動き出すというユーモラスな演出が特徴で、
彼の穏やかな人柄と遊び心が強く感じられます。
このバージョンでは、派手な演出よりも楽曲そのものの魅力が前面に出ており、
肩の力が抜けたジョージ・ハリスンの自然体が印象に残ります。
結果として、楽曲の親しみやすさが視覚的にも強調されました。
もう一つのPVは、当時のMTV時代を意識したダンス要素を取り入れた別バージョンです。
こちらはよりポップで動きのある構成となっており、
楽曲のヒット性を強く意識した内容になっています。
この2種類のPVが示しているのは、
「Got My Mind Set On You」が
音楽的完成度と商業的成功の両立を目指した楽曲であったという事実です。
その両面を使い分ける柔軟さこそ、
『クラウド・ナイン』期のジョージ・ハリスンの成熟を象徴していると言えるでしょう。
セルフオマージュとしての表現
本作におけるビートルズ的要素は、
過去をそのまま再現する懐古主義とは一線を画しています。
ジョージ・ハリスン自身が、
ビートルズという巨大な存在と距離を取れるようになったからこそ可能だった表現です。
特に印象的なのは、
自分自身の過去を客観的に見つめ直す視点です。
それはノスタルジーでありながらも、どこか軽やかでユーモラスでもあります。
『クラウド・ナイン』に漂うビートルズ的感覚は、
過去への敬意と現在の自分を両立させた結果であり、
ソロ後期のジョージ・ハリスンだからこそ到達できた境地だと言えるでしょう。
「When We Was Fab」に込められた自己言及
「When We Was Fab」は、
ビートルズ時代を強く想起させるサウンドと歌詞を持つ楽曲です。
この曲では、過去の栄光をそのまま讃えるのではなく、
距離感を持って振り返る姿勢が印象的に描かれています。
サウンド面では、サイケデリックな要素や重層的なコーラスが用いられ、
60年代後半のビートルズを思わせる雰囲気が漂います。
しかし全体のトーンは決して感傷的に傾きすぎることはなく、
どこか肩の力が抜けた軽やかさが保たれています。
さらに特筆すべきなのが、この楽曲のミュージックビデオの演出です。
PVにはリンゴ・スター本人が出演しており、
加えてウォルラス(セイウチ)の着ぐるみを着たポール・マッカートニーを想起させる存在も登場します。
これは「I Am the Walrus」をはじめとするビートルズ神話への、明確なセルフオマージュと言えるでしょう。
この演出は、ビートルズ時代を神聖化するのではなく、
ユーモアと余裕をもって受け止めている姿勢を示しています。
だからこそ「When We Was Fab」は、
『クラウド・ナイン』が単なる懐古作品ではないことを象徴する重要な楽曲となっているのです。
ジェフ・リンのプロデュースがもたらしたもの
『クラウド・ナイン』を語る上で欠かすことができないのが、
ジェフ・リンのプロデュースです。
彼の関与によって、本作は80年代的な洗練と懐かしさを同時に獲得しました。
ここでは、ジェフ・リンが『クラウド・ナイン』にもたらした具体的な変化を見ていきます。
音の整理と現代性
ジェフ・リンのプロデュースの最大の特徴は、
音の輪郭を明確にする整理力にあります。
過剰な装飾を排し、楽曲の核となるメロディを前面に押し出す手法は、
ジョージ・ハリスンの作風と非常に相性が良いものでした。
シンセサイザーやエフェクトを用いながらも、
サウンドは決して冷たくならず、
温かみと奥行きを感じさせる音像が保たれています。
これは、80年代作品にありがちな時代依存の強さを和らげる要因となっています。
結果として『クラウド・ナイン』は、
当時のリスナーにも、後年のリスナーにも違和感なく受け入れられる作品となりました。
ビートルズ的感覚を引き出す役割
ジェフ・リンは、ジョージ・ハリスンの中にある
ビートルズ的要素を意図的に強調しすぎることはありませんでした。
むしろ、それを自然に引き出すことに注力しています。
コーラスの重ね方やストリングスの使い方には、
確かにビートルズを思わせる瞬間があります。
しかしそれは過去の再現ではなく、
現在のジョージ・ハリスンを通して再構築された感覚として提示されています。
この絶妙なバランス感覚こそが、
『クラウド・ナイン』を懐古と現代性の両立した名盤へと押し上げた最大の要因だと言えるでしょう。
『クラウド・ナイン』はソロ後期の到達点なのか
『クラウド・ナイン』は、商業的成功と作品評価の両面から、
ジョージ・ハリスンのソロ後期を代表するアルバムとして語られてきました。
しかし本作は単なる「復活作」や「ヒット作」という言葉だけでは、
その本質を十分に語り尽くすことはできません。
ここでは、『クラウド・ナイン』が本当にソロ後期の到達点と言えるのかを、
音楽的・精神的な側面から考察します。
音楽的成熟と肩の力の抜けた表現
『クラウド・ナイン』の最大の魅力は、
完成度の高さと同時に感じられる余裕にあります。
若い頃のように自己主張を前面に出すのではなく、
自然体のまま良質な楽曲を提示する姿勢が貫かれています。
これは、ビートルズという巨大な成功体験を経て、
ソロアーティストとしての浮き沈みも経験したジョージ・ハリスンだからこそ
到達できた境地と言えるでしょう。
技巧よりも楽曲そのものを信頼する姿勢が、
アルバム全体に心地よい安定感をもたらしています。
結果として『クラウド・ナイン』は、
聴き手に負担をかけない成熟したロックアルバムとして完成しました。
今なお聴かれ続ける理由
本作が発表から長い年月を経ても支持され続けている理由は、
特定の時代や流行に強く依存していない点にあります。
80年代的な要素を持ちながらも、
それを超える普遍性が楽曲の中にしっかりと根付いています。
また、『クラウド・ナイン』には、
過去と向き合いながら前を向く姿勢が一貫して描かれています。
それはノスタルジーに浸ることでも、
過去を否定することでもありません。
こうした姿勢こそが、
『クラウド・ナイン』をソロ後期の到達点として位置づける最大の理由であり、
ジョージ・ハリスンというアーティストの円熟を最も端的に示す作品だと言えるでしょう。
まとめ|『クラウド・ナイン』が示したジョージ・ハリスンの到達点
『クラウド・ナイン』は、
ジョージ・ハリスンのソロ後期における完成形と呼ぶにふさわしいアルバムです。
ビートルズ的感覚を自然体で内包しながら、
80年代という時代に適応したサウンドを獲得した点に、
本作の大きな価値があります。
特に重要なのは、
本作の成功がジェフ・リンのプロデューサーとしての評価を決定づけたという点です。
『クラウド・ナイン』で示された、
過去への敬意と現代的整理力を両立させる手腕は、
後に『Beatles Anthology』プロジェクトに起用される大きなきっかけとなりました。
実際にジェフ・リンは、
ジョージ・ハリスンとともにビートルズの未発表音源を扱い、
「Free As a Bird」「Real Love」といった新曲制作にも深く関与します。
その信頼関係は、『クラウド・ナイン』で築かれたものだったと言えるでしょう。
つまり『クラウド・ナイン』は、
単なるヒットアルバムではなく、
ビートルズの歴史が再び動き出す前段階としての役割も担っていたのです。
ジョージ・ハリスンが過去と和解し、
未来へと視線を向けたからこそ生まれた作品だと言えます。
今あらためて『クラウド・ナイン』を聴くと、
そこには懐古でも回顧でもない、
成熟したアーティストの静かな自信が確かに刻まれています。
だからこそ本作は、時代を超えて聴き継がれる名盤として、
今なお多くのリスナーに支持され続けているのです。
- 『クラウド・ナイン』はジョージ・ハリスンのソロ後期を代表する名盤!
- ビートルズ的感覚を自然体で再構築した成熟のサウンド!
- 1987年という時代に適応しつつ普遍性を獲得した作品!
- 「Got My Mind Set On You」で商業的にも大成功!
- 2種類のPVが80年代MTV時代との相性を象徴!
- 「When We Was Fab」でビートルズ時代をユーモラスに自己言及!
- PVにはリンゴ出演とウォルラスのポールを想起させる演出!
- ジェフ・リンの整理されたプロデュースが完成度を高めた!
- 本作の成功が『The Beatles Anthology』参加の重要なきっかけ!

