ジョン・レノンとヨーコ・オノによるアルバム『ミルク・アンド・ハニー』は、ジョンの死後1984年にリリースされた、言わば“遺作の続編”です。
本作は、もともと2枚組になるはずだった『ダブル・ファンタジー』のセッションで録音された未使用音源、特にジョンの「ボツ曲」が中心となっています。
この記事では、当時の背景や録音の実態、“Grow Old with Me”などの未発表曲、そしてヨーコが後年加えた新曲群をもとに、『ミルク・アンド・ハニー』という作品の真実に迫ります。
この記事を読むとわかること
- 『ミルク・アンド・ハニー』の全曲構成と収録背景
- ジョンとヨーコの音楽的対話と未完の物語
- タイトルに込められた理想と現実の象徴性

ジョンの未発表曲は『ダブル・ファンタジー』のセッション残りだった
『ミルク・アンド・ハニー』に収録されたジョン・レノンの楽曲は、1980年の『ダブル・ファンタジー』制作時に録音された未使用テイクやデモ音源を中心に構成されています。
もともと2枚組として構想されていた『ダブル・ファンタジー』の“ボツ曲”や未完成テイクが、そのまま『ミルク・アンド・ハニー』に流用された形です。
構成やテーマ的にも完成を見ていた『ダブル・ファンタジー』と違い、こちらは未整理で、「アルバム」と呼ぶにはやや散漫な印象すら残ります。
2枚組構想の名残ではあるが「ボツ曲」集に近い
当時のセッションでは、ジョンとヨーコの曲を交互に並べて構成する2枚組の案が存在していました。
しかし、選曲の段階で落とされた「完成度に欠ける曲」や、コンセプトから外れた楽曲が多く、『ミルク・アンド・ハニー』は“選外集”とも言える内容になっています。
ヨーコが後年これらを掘り起こし、独自に編集・リリースした形であり、当初から「後編」として計画されていたわけではありません。
暗殺当夜は“Walking on Thin Ice”のミックス作業中だった
1980年12月8日、ジョンが暗殺された夜は、ヨーコの「Walking on Thin Ice」のミキシング作業に従事していたことが確認されています。
この時点で『ミルク・アンド・ハニー』の制作は行われておらず、「録音中に命を奪われたアルバム」として語られるのは後年の誤解や演出に基づくものだと考えられます。
後年語られた「録音中だった」という矛盾
1983年以降の一部メディアやインタビューでは、「このアルバムを録音中だった」とする説明も見られますが、実際には録音自体は1980年までに終了していました。
それゆえ、『ミルク・アンド・ハニー』は「制作中の遺作」ではなく、「死後に整理された未使用音源集」であるという視点が、より事実に即した捉え方だと言えるでしょう。
“Walking on Thin Ice”と“Abracadabra”の意外な関係
“Walking on Thin Ice”はジョン・レノンが亡くなる夜にミキシングしていた楽曲で、彼のギター演奏が聴ける最後の公式音源でもあります。
この曲はエッジの効いたカッティングギター、シンセベース、冷たい電子音、そしてヨーコの浮遊感あるボーカルというポストディスコ/ニューウェーブ的な要素を多数含んでいます。
一方、スティーヴ・ミラー・バンドの“Abracadabra”は1982年リリースで、当時のシンセ・ポップの潮流に乗りつつも、似たようなギターとリズム構成が聴き取れます。
両者を聴き比べると、曲全体のコード感やビート、特にコーラスにかけてのメロディ展開に共通点があるため、「似ている」と感じるリスナーがいても不思議ではありません。
ただし、直接的な盗作・引用の証拠はなく、偶然の産物、あるいは時代的な音楽トレンドが双方に影響を与えた可能性が高いと考えられます。
むしろ“Walking on Thin Ice”が早すぎたニューウェーブ・ディスコとして、後の音楽に間接的な影響を与えた「先取り曲」だったという見方もできます。
比較分析コーナー:“Walking on Thin Ice”と“Abracadabra”の類似性
『ミルク・アンド・ハニー』とは別枠ですが、ジョン・レノンが最後に関わったシングル“Walking on Thin Ice”(1981年リリース)と、スティーヴ・ミラー・バンドの“Abracadabra”(1982年)の類似性について触れておきます。
ギターとグルーヴに共通点が多い2曲
両曲ともエッジの効いたカッティング・ギター、反復的で中毒性のあるリズムパターン、そしてエレクトロニックなサウンドを特徴としています。
特に“Walking on Thin Ice”は、ジョンが弾いたギター・フレーズが印象的で、同時代のニューウェーブやダンス・ロックに先駆けるサウンドを提示していました。
“Abracadabra”は1982年に全米No.1を記録し、似たようなアプローチで大衆に受け入れられたことから、市場のタイミングによって“Walking on Thin Ice”がより売れていても不思議ではないとも言えるでしょう。
ジョン・レノンの「この曲は絶対に売れる」発言
ヨーコ・オノの回想によれば、ジョンは“Walking on Thin Ice”の完成後、「これは絶対に売れるヒット曲になる」と興奮気味に語っていたそうです。
それだけ彼にとって手応えのある楽曲だったことが伺えます。
しかし、リリース直前の1980年12月8日にジョンは暗殺され、そのショックも影響してシングルは注目を浴びつつも、商業的には大ヒットには至りませんでした。
“Walking on Thin Ice”の「もしも」
“Abracadabra”が証明したように、1981〜82年当時の音楽市場は、こうしたシンセ・ロック/ダンス路線を求めていたことが明らかです。
ジョンの死がなければ、プロモーションやツアーも可能だったかもしれず、“Walking on Thin Ice”が本当にNo.1ヒットになっていた未来も想像できます。
結果的に先駆者としての価値が残った
ヒットには至らなかったものの、この曲が後のダンス・ロックに影響を与えた可能性は大きく、“商業的成功”ではなく“音楽的先見性”が評価される結果となりました。
それは、ジョン・レノンというアーティストが最後まで時代の最前線を感じ取っていた証でもあります。
“Grow Old with Me”は1977年のデモから
『ミルク・アンド・ハニー』の中で特に印象的な楽曲が、ジョン・レノンによる“Grow Old with Me”です。
この曲は『ダブル・ファンタジー』のセッションで録音されたわけではなく、1977年に自宅でカセット録音されたデモテープに含まれていたもので、後に“Free As A Bird”や“Real Love”、“Now And Then”と共に再注目されることになります。
この音源は荒削りでピアノとリズムボックスの簡素な構成ですが、静かに心を打つ祈りのような魅力を持っています。
“Free As A Bird”と同時期に録られた貴重な音源
“Grow Old with Me”は、ジョンが1977年に録音したプライベートなデモのひとつであり、後にザ・ビートルズのメンバーが“Free As A Bird”や“Real Love”の仕上げに使った同じ時期のものです。
これらのデモは、ジョンが「もしビートルズが再結成したら」という仮想的な未来に向けて温めていたような楽曲にも見えます。
“Grow Old with Me”はその中でも特に、ヨーコとの結婚生活を念頭に書かれた、ラブソングとしての純度が非常に高い一曲です。
結婚式用に構想されたジョンのラブソング
この曲には、ロバート・ブラウニングの詩「Grow old along with me! The best is yet to be.」からインスピレーションを受けた要素が明確に現れています。
ジョン自身が「この曲は結婚式で使えるような、時代を超えて愛される歌にしたかった」と語っていたとも言われており、その意図は歌詞とメロディに深く刻まれています。
完成されたスタジオ版は存在せず、このカセットデモこそが、彼の“最後の言葉”として静かに残されたのです。
ヨーコの“Let Me Count the Ways”との対になる構成
『ミルク・アンド・ハニー』では、ヨーコ・オノが“Let Me Count the Ways”という楽曲でこの曲に呼応する構成になっています。
このヨーコの曲もまた詩から着想を得ており、エリザベス・バレット・ブラウニングの「How do I love thee? Let me count the ways…」という詩に基づいています。
つまり、この2曲は文学的対話=夫婦の愛の返歌として意図されていた可能性が高く、『ミルク・アンド・ハニー』の中でも特に深い意味を持った対となる楽曲と言えるでしょう。
『ミルク・アンド・ハニー』全収録曲と解説
- 1. I’m Stepping Out – ジョン・レノン
ジョンが育児生活から少し抜け出して夜の街に出る自由をユーモラスに歌ったロックンロール。80年当時の家庭内パパな姿と遊びたい衝動がリアルに描かれている。 - 2. Sleepless Night – オノ・ヨーコ
夜中に目が覚め、愛や不安についての断片的なイメージが流れるように続く。ノイジーなギターとエフェクトが前衛的で印象的。 - 3. I Don’t Wanna Face It – ジョン・レノン
「現実を見たくない」という強烈なタイトル通り、人生や自分自身と向き合うことの怖さとそれでも逃げられない感情を描いている。 - 4. Don’t Be Scared – オノ・ヨーコ
囁くような優しいボーカルで「恐れないで」と語りかける、比較的メロディアスなナンバー。ヨーコらしい母性的な優しさがにじむ。 - 5. Nobody Told Me – ジョン・レノン
「こんな世界になるなんて誰も教えてくれなかった」——社会への戸惑いと皮肉が込められたポップなロック。死後にシングルヒットを記録。 - 6. O’Sanity – オノ・ヨーコ
スキャット風のボーカルと不規則なリズムで構成され、精神の不安定さを表現。芸術性と実験性が高い一曲。 - 7. Borrowed Time – ジョン・レノン
カリプソ風のリズムが心地良く、「時間は借り物、過ぎていくもの」という死生観を描く。穏やかで深みある名曲。 - 8. Your Hands – オノ・ヨーコ
静かな語り口調で、愛する人の「手」に焦点を当てた内省的な楽曲。鍵盤が印象的に響く。 - 9. (Forgive Me) My Little Flower Princess – ジョン・レノン
小さな娘への謝罪と愛情を軽快に綴ったナンバー。家庭人としてのジョンの一面が見える。 - 10. Let Me Count the Ways – オノ・ヨーコ
詩的で優しいラブソング。エリザベス・バレット・ブラウニングの詩に着想を得ており、“Grow Old with Me”の対になる作品。 - 11. Grow Old with Me – ジョン・レノン
結婚生活を末永く共にしたいという願いが込められた、1977年録音のデモ。シンプルながら深い情感が胸を打つ。 - 12. You’re the One – オノ・ヨーコ
アルバム最後を飾るアップテンポで軽快な曲。ヨーコがジョンに語りかけるような愛のメッセージが力強い。
“I’m Stepping Out”や“Borrowed Time”が語るリアルな生活
『ミルク・アンド・ハニー』に収録されたジョン・レノンの楽曲群には、一人の男としてのリアルな「生活の声」が色濃く反映されています。
特に“I’m Stepping Out”と“Borrowed Time”は、華やかなビートルズ時代とは異なる、家庭人としてのジョンや人生への内省を感じさせる重要な楽曲です。
音楽的にはシンプルながら、歌詞に宿る現実感とユーモアが、晩年のジョンの視線を物語っています。
外に出たい父親の独白、“I’m Stepping Out”
“I’m Stepping Out”は、専業主夫として家庭にこもる生活から一時的に抜け出し、夜の街に繰り出す自由を求めたリアルな気持ちを歌った曲です。
「赤ん坊の世話をして、掃除をして、でも今夜は外に出る!」という歌詞には、育児と家事に追われる父親の“ちょっとした反抗心”がにじんでいます。
この楽曲はロックンロールのリズムに乗せて、ジョンが1975年から1980年にかけて体験した「家庭中心の生活」の裏側を明るくユーモラスに表現しています。
“Borrowed Time”が描く、穏やかで深い死生観
一方“Borrowed Time”は、「人生の時間は借り物だ」というテーマをカリプソ風の軽快なリズムで包み込みます。
この曲は、1977年の航海中に嵐に巻き込まれた体験がきっかけとなり、「生かされている時間の儚さと、その中で得られる感謝」を穏やかに語っています。
歌詞では「以前は何も知らなかったが、今は少しだけ分かるようになった」と自己変化を振り返りながら、死を前提にしつつも、決して悲観的ではない独特の死生観がにじみ出ています。
ロックと人生のあいだに立つ言葉
“I’m Stepping Out”が日常の一コマをロックで弾けさせるなら、“Borrowed Time”は静かに人生を振り返る内面の声です。
この対比は、40代を迎えたジョンが、若き日の反抗と家庭人としての成熟、その両方を自然体で受け止めていたことを物語ります。
どちらの曲も「最後の5年間」のジョンを知る上で欠かせない楽曲であり、音楽としての魅力だけでなく、彼の人間像そのものに深く関わっているのです。
“Watching the Wheels”との違い:静と動、俯瞰と行動
“Watching the Wheels”は、『ダブル・ファンタジー』に収録されたジョンの名曲で、自身の引退生活を静かに肯定する内省的な歌です。
「なぜ表舞台から姿を消したのか」と問う人々に対し、「ただ車輪が回るのを眺めているのが好きなんだ」と答えるジョンの姿勢が印象的です。
この曲はまさに、“動かないことを肯定する哲学的な歌”であり、彼の“観察者”としての立場が表れています。
それに対して、“I’m Stepping Out”は、「もう一度行動したい」=外に出たい、遊びたい、という能動的な衝動が歌われています。
ジョンの言葉で言えば、「子育ても良いけど、ちょっと羽を伸ばさせて!」というリアルな“父親の叫び”がそこにあります。
また、“Borrowed Time”は“Watching the Wheels”とテーマは近いですが、こちらはもう少し「命の時間そのものを意識した人生観」が前面に出ています。
言うなれば、“Watching the Wheels”が「今はこれでいい」と静かに語る俯瞰の歌であるのに対し、“Borrowed Time”は「今を生きよう」という人生への優しい肯定を響かせているのです。
この3曲はそれぞれ異なる角度から1975年〜1980年のジョン・レノンの「再起動の時間」を描いており、『ダブル・ファンタジー』と『ミルク・アンド・ハニー』をつなぐ“心の三部作”とも呼べるでしょう。
ヨーコ・オノの新曲が完成させた『対話』という構成
『ミルク・アンド・ハニー』の特徴のひとつは、ジョン・レノンとオノ・ヨーコの楽曲が交互に配置された構成にあります。
これは『ダブル・ファンタジー』でも採用されたフォーマットであり、音楽による“夫婦の対話”という形をとっています。
ただし、ジョンの楽曲が1980年までに録音されたものであるのに対し、ヨーコのパートは1983年以降に制作された新曲が中心となっている点に注意が必要です。
1983年に録音されたヨーコの電子的アプローチ
ヨーコの楽曲群は、ジョンのアナログ録音とは対照的に、当時の最新機材やシンセサイザーを用いて制作されたエレクトロニックな仕上がりになっています。
たとえば、“O’Sanity”や“Your Hands”では、音の空間性や実験性が強く意識されており、単なるバッキングではなく、個としての表現が際立っています。
このようにヨーコの音楽は、1980年代の音響感覚を取り入れつつも、自身の芸術性を強く反映させた個性豊かな表現となっています。
ジョンの残した声にヨーコが「返歌」するように
『ミルク・アンド・ハニー』における最大の聴きどころのひとつが、“Grow Old with Me”と“Let Me Count the Ways”という対になる楽曲の存在です。
ジョンが1977年に録音した“Grow Old with Me”は、「共に年老いていこう」というメッセージを込めたラブソング。
これに対し、ヨーコの“Let Me Count the Ways”は、エリザベス・バレット・ブラウニングの詩をもとに、どれほどあなたを愛しているかを数え上げるように歌う返答となっています。
時を超えて「会話」が成立する不思議な構成
この2人の楽曲は、制作された年も環境も異なるにも関わらず、アルバム上ではまるで時間を超えて“会話”しているように響くのが大きな魅力です。
“I’m Stepping Out”の直後にヨーコが“Don’t Be Scared”でそっと語りかけたり、“Borrowed Time”のあとに“Your Hands”が続いたりと、互いにメッセージを返しているような配置が随所に見られます。
これは、“現実にはもう交わらないふたり”の音楽的な対話の再構築であり、ヨーコがこのアルバムを「未完の夫婦の会話」として仕上げた意図が見て取れます。
『ミルク・アンド・ハニー』というタイトルの意味
『ミルク・アンド・ハニー』というタイトルには、単なる詩的な響き以上の深い意味が込められています。
この言葉は、旧約聖書に登場する「乳と蜜の流れる地(Land of Milk and Honey)」を起源とし、理想郷・約束の地・憧れの場所といった象徴的意味を持ちます。
つまりこのアルバムは、レノン夫妻にとっての理想の人生や愛のかたちを音楽で描き出そうとしたものだったのです。
理想郷としての「ミルク&ハニー」
ヨーコによれば、このタイトルは彼女が提案したもので、アメリカという“可能性の地”に向かった移民たちの幻想や希望を象徴する言葉として捉えられていました。
ジョンが気に入って最初のアルバムタイトルを「ダブル・ファンタジー」にし、次作を『ミルク・アンド・ハニー』にすることで二部構成の構想が生まれたという経緯も語られています。
この順番は、「幻想(Fantasy)」から「理想郷(Milk & Honey)」へと至る夫婦の心の旅という物語性をも想像させます。
未完の理想、残された「約束の地」
しかし、ジョンが暗殺されたことにより、その“約束の地”は到達することのないまま幻となりました。
このタイトルは、未完に終わった人生と、叶わなかった未来への追悼の意味をも併せ持っているのです。
完成していた『ダブル・ファンタジー』とは対照的に、『ミルク・アンド・ハニー』はラフなデモ音源や未整理の素材を含む構成になっており、その“未完成性”がむしろタイトルの理想と現実のギャップを浮き彫りにしています。
夫婦の物語を象徴するタイトル
『ミルク・アンド・ハニー』という言葉が持つ甘美さや幸福の響きとは裏腹に、そこには失われた時間、語りきれなかった対話、そして愛の残響が潜んでいます。
まさにこのアルバムは、ジョン・レノンとヨーコ・オノという二人のアーティストが目指した“愛の形”の記録であり、音楽を通じて未完の理想を語る「夫婦のエピローグ」だったと言えるでしょう。
ジョン・レノン ミルク・アンド・ハニーに宿る愛の記憶まとめ
『ミルク・アンド・ハニー』は、ジョン・レノンの死後に完成された「未完の愛の記録」として、今も静かに私たちの心に語りかけてきます。
このアルバムは、決して統一感のある作品ではありません。
むしろ未整理な素材や荒削りな録音が、そのまま彼の生活、想い、そして未完の時間のリアリズムを映し出しているのです。
ドキュメントとしての価値と、矛盾の美学
ジョンの音源には、ラフなカセット録音や未完成のデモが多く含まれており、アーティストとしてよりも人間としての「日常」や「感情」が滲み出ている点が魅力です。
一方でヨーコの曲は完成度が高く、時代性や芸術性が前面に出ています。
この録音時期も表現方法も異なるふたりの音楽が「ひとつの作品」として共存している点に、『ミルク・アンド・ハニー』の美学があるのです。
ヨーコが編んだレクイエム的アルバムとしての完成
このアルバムを「夫婦の対話」として構成したのは、残されたヨーコの手によるものであり、愛する人の死をどう記憶し、どう語り継ぐかというテーマが根底にあります。
“Grow Old with Me”にヨーコの“Let Me Count the Ways”が応答し、二人の愛は現実では途切れても、音楽の中では続いていることを示しています。
それは「音楽を通じた永遠の会話」であり、聴くたびに新たな意味を帯びて私たちの心を揺らします。
未完成であるがゆえの“本物”の手触り
完璧ではない構成、音質、バランス。そこにあるのは作り込まれた商品ではなく、息づく人間の声です。
『ミルク・アンド・ハニー』は、ジョン・レノンが遺した愛とユーモア、そしてヨーコ・オノが捧げた鎮魂と希望の交差点に立つアルバムです。
今もなお多くの人々がこの作品に耳を傾けるのは、その不完全さの中にこそ真実の温度が宿っているからなのかもしれません。
この記事のまとめ
- 『ミルク・アンド・ハニー』は未発表曲を中心に構成
- ジョンとヨーコの楽曲が交互に収録された構成
- “Grow Old with Me”は1977年のデモ音源
- ヨーコの新曲が夫婦の対話を完成させている
- “Borrowed Time”や“I’m Stepping Out”が生活感を描写
- タイトルは聖書に基づく理想郷の象徴
- 完成度ではなく「未完のリアルさ」が魅力
- 暗殺後にヨーコが編んだレクイエム的作品

