ポール・マッカートニーが1980年に発表したアルバム『マッカートニーII』は、当時“異色作”として扱われ、評価も決して高くはありませんでした。
しかし、2020年代の現在、その実験的で先鋭的なサウンドが再評価され、ポールの先見性が改めて注目されています。
この記事では、このアルバムの魅力や評価の変遷、注目の楽曲を掘り下げ、ポール・マッカートニーの本当の凄さに迫ります。
この記事を読むとわかること
- 『マッカートニーII』の全収録曲とその音楽的特徴
- 発売当時の誤解と、現代での再評価の背景
- ポール・マッカートニーの創作姿勢とウイングス中止の影響

ポール・マッカートニーの本当の凄さは『マッカートニーII』に詰まっている
ポール・マッカートニーの“凄さ”は、ビートルズやウイングスでの功績だけでは語り尽くせません。
その本質は、常に時代の先を見据え、誰にも頼らず自分だけの音を追求する姿勢にあります。
1980年に発表された『マッカートニーII』は、その精神が最も濃く刻まれた作品の一つです。
たった一人で録音した“孤高のDIYアルバム”
このアルバムは、すべてポール・マッカートニーが自宅スタジオで一人で演奏・録音・ミキシングまでを手がけた、完全なソロ作品です。
1970年に発表した『マッカートニー』の続編という位置づけでありながら、その音世界はまったく異なるものとなっています。
当時はまだ珍しかったシンセサイザーやドラムマシンといった電子楽器を駆使し、まるで未来から来たかのようなサウンドを作り上げました。
リリース当時は酷評、それでも挑戦を止めなかった理由
このアルバムに対する当時の批評は、正直に言えば手厳しいものでした。
「散漫」「まとまりがない」「実験的すぎる」などと評されましたが、シングル「カミング・アップ」と同様に、アルバムもイギリスをはじめとする各国のチャートで1位を記録しています。
つまり、批評とリスナーの反応が乖離していた作品とも言えるのです。
もともとこの音源は、ポールが“車の中でドライブしながら聴くため”に自分用に作っていたプライベートな録音テープでした。
それを聴いた友人たちが「これは世に出すべきだ」と薦めたことがきっかけで、正式にアルバムとして発売されたのです。
また、先行して1979年には「ワンダフル・クリスマス・タイム」がリリースされ、
同年のウイングスの全英ツアーでは「カミング・アップ」などが既に演奏されていたことも、この時期の創作活動の充実ぶりを物語っています。
ただしアルバムの発売は、1980年の日本での大麻所持による逮捕の直後であったため、一部の楽曲やタイトルに対して不本意な誤解が生まれてしまったのも事実です。
にもかかわらず、アルバムは世界中で成功を収めました。
新たなウイングス像を求めて精一杯作った前作『バック・トゥ・ジ・エッグ』よりも、何気なく楽しみながら作った本作の方が売れたという結果に、ポール自身もさぞ驚いたことでしょう。
しかし、だからこそ明らかになったのは、“本当に心から楽しんでいる音楽”こそが人の心を動かすという、ポール・マッカートニーの音楽家としての凄さなのです。
『マッカートニーII』が今、再評価されている理由
1980年の発売当時は“問題作”として扱われた『マッカートニーII』ですが、時代が進むにつれてその価値が再発見されつつあります。
2020年代に入り、テクノロジーと音楽の融合が主流となった今だからこそ、このアルバムが持つ先見性と独自性が注目されているのです。
再評価の背景には、YMOやニューウェーブとの共鳴、そしてインディ音楽にも通じるDIY精神への共感があります。
YMOやニューウェーブとの共振が新鮮に映る
『マッカートニーII』がリリースされた1980年前後は、イギリスではニューウェーブやポストパンク、
ポリス、
https://keiseisaimin.site/archives/1578
バグルス、
ゲイリー・ニューマン
アメリカのディーヴォや
西ドイツのクラフトワーク、
そして日本ではYMOを中心としたテクノポップが隆盛を迎えていました。
ポールがシンセサウンドやエレクトロなビートを取り入れた本作は、奇しくもそのムーブメントと自然にリンクする作品となっていたのです。
“Frozen Jap”や“Front Parlour”といったインスト曲は、クラフトワークやYMOの影響を感じさせるサウンド構成を持ち、当時としてはかなり前衛的な試みといえます。
時代を先取りした“Temporary Secretary”の衝撃
再評価の象徴とも言えるのが、“Temporary Secretary”という楽曲です。
この曲は、ループする無機質なシンセ、ひたすらワンコードで進む構造、ローファイなボーカルといった要素で構成されており、当時は理解されにくいものでした。
しかし現代においては、この曲がチルウェーブやインディ・エレクトロといったジャンルの先駆け的存在として評価されるようになっています。
“奇妙だけどクセになる”という感覚は、むしろ今のリスナーに刺さる魅力となっています。
このように、『マッカートニーII』は、単なる実験作ではなく、ポールの先見性が音として結晶化したアルバムなのです。
だからこそ、当時には理解されずとも、現代の音楽的文脈の中で確かな光を放ち始めているのだと私は感じます。
注目の楽曲とそのサウンドの魅力
『マッカートニーII』には、ポール・マッカートニーの幅広い音楽性と実験精神が詰まった12曲(UKオリジナル盤)+ボーナストラックが収録されています。
ここでは、それぞれの楽曲が放つ個性と、サウンド的な特徴をひとつずつ丁寧にご紹介します。
リスナーによって好きな曲が異なるように、どの楽曲にも独自の表情があるのがこのアルバムの魅力です。
全収録曲と解説
| 1. Coming Up | アルバムの冒頭を飾るシンセ・ポップナンバー。陽気なメロディと無機質なビートが特徴で、全米でも1位を獲得。 |
| 2. Temporary Secretary | 前衛的なミニマル・シンセトラックで、現在ではポールの最も実験的な曲として再評価。英国のみで12inchの限定の第三弾シングルとして発売。 |
| 3. On the Way | ブルージーで渋い一曲。ギターのフレーズとささやくようなボーカルが印象的。 |
| 4. Waterfalls | シンプルながら深いメッセージを持つバラード。透明感のあるメロディが胸に残る。第二弾シングルだったが、アメリカではチャート・インせずに終わった。 |
| 5. Nobody Knows | アップテンポなロックンロール。ラフな録音がライブ感を演出している。 |
| 6. Front Parlour | SF的なシンセ・インストゥルメンタル。音のレイヤーが未来的。 |
| 7. Summer’s Day Song | 静謐で幻想的な曲。ポールの多重録音によるコーラスが美しい。 |
| 8. Frozen Jap | タイトルは物議を醸したが、音的にはオリエンタルなエレクトロ・インストとして高評価。 |
| 9. Bogey Music | 1950年代風のロカビリーをシンセで再構築。遊び心が詰まっている。「エルビス・プレスリーを意識している」と言われていました。 |
| 10. Darkroom | サイケとエレクトロの交差点のような楽曲。短いが印象的なフレーズが耳に残る。日本での逮捕の後なので、色々と考えさせられる曲です。 |
| 11. One of These Days | 穏やかなアコースティックバラードで、アルバムの締めくくりにふさわしい一曲。 |
なお、再発盤にはシングル「Waterfalls」のB面「Check My Machine」や
シングル「Temporary Secretary」のB面「Secret Friend」
など、さらに実験性の強いボーナストラックも収録されています。
これらの音源からは、ポールがいかに音で遊び、技術やトレンドを取り込みながらも“自分の音”を追求していたかがよくわかります。
当時と現在の評価のギャップが示すもの
『マッカートニーII』は、リリース当初こそ「失敗作」「理解不能」「奇妙すぎる」と評されましたが、現代では実験精神に満ちた先進的な作品として、確かな再評価を受けています。
その評価の変遷は、単に音楽の好みの変化だけではなく、私たちが音楽をどう聴くか、どう受け入れるかという“耳の感度”の変化でもあるのです。
このギャップは、アーティストの創造と時代の理解のタイムラグを如実に示しています。
リリース当時は“電子音の迷走”と捉えられた
1980年という時代背景において、ポールが試みたエレクトロニックなサウンドは、ロックやポップの王道を期待していたファンや評論家には異質すぎたのかもしれません。
「Temporary Secretary」などは、意味不明で奇怪とまで言われたほどです。
彼の名前があるからこそ、期待値が過剰になっていた部分も否定できません。
しかし現在では“革新性の象徴”としての地位を確立
近年、インディ・ミュージックやエレクトロ・ポップの隆盛により、このアルバムのサウンドが「今聴いても新鮮」と評価されるようになりました。
特に“Temporary Secretary”は、SpotifyやYouTubeなどで再注目され、若いリスナーにも浸透しています。
今では“過小評価されていた名盤”として多くの音楽メディアにも紹介されており、ポールの挑戦がようやく正当に評価される時代が来たと言えるでしょう。
このような評価の変化を見ると、音楽の価値とは、時代によって塗り替えられる動的なものだと気づかされます。
『マッカートニーII』はその好例であり、ポール・マッカートニーの“先を見据える力”と“音を信じる勇気”が、どれだけ普遍的だったかを証明しているのです。
当時と現在の評価のギャップが示すもの
『マッカートニーII』は、リリース当初こそ「失敗作」「理解不能」「奇妙すぎる」と評されましたが、現代では実験精神に満ちた先進的な作品として、確かな再評価を受けています。
その評価の変遷は、単に音楽の好みの変化だけではなく、私たちが音楽をどう聴くか、どう受け入れるかという“耳の感度”の変化でもあるのです。
このギャップは、アーティストの創造と時代の理解のタイムラグを如実に示しています。
リリース当時は“電子音の迷走”と捉えられた
1980年という時代背景において、ポールが試みたエレクトロニックなサウンドは、ロックやポップの王道を期待していたファンや評論家には異質すぎたのかもしれません。
「Temporary Secretary」などは、意味不明で奇怪とまで言われたほどです。
彼の名前があるからこそ、期待値が過剰になっていた部分も否定できません。
“Frozen Jap”が生んだ誤解とその対応
なかでも特に物議を醸したのが、インストゥルメンタル楽曲「Frozen Jap」です。
このタイトルは、1980年初頭という文脈において、日本での大麻所持によるポールの逮捕と重なったことで、特に日本国内で敏感に受け止められました。
“Jap”という表現は、日本では差別的と解釈されかねない語であり、海外ではカジュアルに使われる場面もあるとはいえ、日本では放送禁止レベルの言葉と認識されています。
そのため、日本盤では急遽「Frozen Japanese」と改題される措置が取られました。
ポール自身に悪意はなかったとされており、むしろタイトルの意味よりもサウンドの実験性やリズムの遊び心が注目されるべき曲です。
ウイングスの1980年日本公演中止という大きな代償
1980年1月16日、ウイングスは日本武道館公演を含む全11公演を予定して来日していましたが、羽田空港到着直後にポールが大麻所持で逮捕されたことで、すべてのスケジュールがキャンセルされるという事態に発展しました。
ポールは約10日間、東京拘置所に勾留された後に強制送還。
この事件は世界中で報道され、アルバム『マッカートニーII』や曲「Frozen Jap」の印象に、当時の日本国内では否応なく影を落とすことになったのです。
この後、ポールは「オッす」とか「うちのカミさん」という言葉をよく使うようになりました。もしかしたら、この時に覚えたのかもしれません。
なお、この時の日本公演のパンフレットは、このアルバムの予約特典でした。

スネークマン・ショーも、22番こと、ポールを茶化しています。
この事件を経てウイングスは自然解散の流れをたどり、ポールはますますソロとしての音楽活動にシフトしていきました。
つまり『マッカートニーII』は、ウイングスの終焉とポールの再出発を象徴する“過渡期”の作品であったとも言えるのです。
しかし現在では“革新性の象徴”としての地位を確立
近年、インディ・ミュージックやエレクトロ・ポップの隆盛により、このアルバムのサウンドが「今聴いても新鮮」と評価されるようになりました。
特に“Temporary Secretary”は、SpotifyやYouTubeなどで再注目され、若いリスナーにも浸透しています。
今では“過小評価されていた名盤”として多くの音楽メディアにも紹介されており、ポールの挑戦がようやく正当に評価される時代が来たと言えるでしょう。
このような評価の変化を見ると、音楽の価値とは、時代によって塗り替えられる動的なものだと気づかされます。
『マッカートニーII』はその好例であり、ポール・マッカートニーの“先を見据える力”と“音を信じる勇気”が、どれだけ普遍的だったかを証明しているのです。
『マッカートニーII』アーカイブ・コレクションで広がる世界
2011年には、ポール・マッカートニーによるリマスタープロジェクト「アーカイブ・コレクション」の一環として、『マッカートニーII』のデラックス・エディションが再リリースされました。
3枚組CD+DVD(スーパー・デラックス版)には、オリジナルアルバムのリマスター音源に加え、以下のような貴重なコンテンツが収録されています:
- 「Check My Machine」「Secret Friend」など当時未発表の実験的音源
- 別ミックスやロング・バージョンなどのアウトテイク
- プロモーションビデオやホームスタジオ映像を収録したDVD
これらの音源からは、ポールが自分のスタジオで“ひとり遊び”をしていたような創作の現場がリアルに感じ取れます。
ブックレットには多数の未公開写真や手書きのノート、当時のエピソードを収録しており、ファンにとってはまさに“音のアーカイブ”を旅する特別な体験となる内容です。
『マッカートニーII』を深く味わい直したい方、またポールの制作の舞台裏に興味のある方には、このアーカイブ・エディションは必携と言えるでしょう。
『マッカートニーII』アーカイブ・コレクション収録内容と解説
2011年にリリースされた『マッカートニーII』アーカイブ・コレクションは、ポール本人の監修によりリマスターされた決定版。
3枚のCDと1枚のDVDからなり、当時のアウトテイクや未発表曲、映像資料を網羅しています。
ここではディスクごとに、その内容と注目ポイントをご紹介します。
📀 Disc 1:オリジナル・アルバム(2011年リマスター)
- 1980年にリリースされたオリジナル・アルバムの全11曲をリマスター収録
- 音質が格段に向上し、シンセの質感や細かなミックスのディテールが鮮明に
- 「Coming Up」や「Waterfalls」などが当時以上にクリアな印象に
📀 Disc 2:ボーナストラック集(アウトテイク&未発表曲)
- 「Blue Sway(with Richard Niles orchestration)」:美しい弦アレンジが加えられた幻想的インストゥルメンタル
- 「Check My Machine」:ボコーダーと変調ボイスの実験作、ヒップホップ以降の耳にも新鮮
- 「Secret Friend」:約10分にわたるミニマルでサイケな世界、チルアウトにも最適
- その他、「Wonderful Christmastime(編集版)」やB面曲「Mr. H Atom」「You Know I’ll Get You Baby」も収録
- “遊び”のようでいてどこか切実な、ポールの実験精神を感じるディスク
📀 Disc 3:未発表バージョン&ロングテイク
- 「Coming Up(Full Length Version)」:シングル用の編集とは違う、よりグルーヴィーな長尺版
- 「Darkroom(Long Version)」:不気味な浮遊感がさらに増したロングテイク
- 「Frozen Jap(Instrumental)」:より純粋にサウンドの面白さにフォーカスしたミックス
- 通常盤では聴けない音素材の“裏側”を覗けるディスク
📀 DVD:ビデオ・アーカイブ
- 「Coming Up」プロモーションビデオ:ポールが複数のキャラに扮したユーモラスな映像
- 「Waterfalls」プロモーションビデオ:シンプルで詩的な映像世界が楽曲とマッチ
- ホームスタジオでのリハーサル映像やインタビュー:DIY感と親密さがあふれる貴重な記録
- 映像はリマスターされ、当時の空気感やポールの“素顔”に触れられる内容
📘 ブックレット&資料
- 128ページの豪華ブックレット付き(スーパー・デラックス版)
- 未公開写真、ポール自身による手書きメモ、当時のアートワーク、機材リストも掲載
- “読む音楽体験”としても楽しめる、資料性の高いセット
『マッカートニーII』アーカイブ・コレクションは、単なるリマスターではありません。
ポールの音楽的内面や制作過程を深く知ることができる、“探求型リスニング”の宝庫です。
このアルバムに再び耳を傾けたい方には、ぜひこのエディションでの体験をおすすめします。
『ポール・マッカートニー マッカートニーII』の魅力を改めて振り返るまとめ
1980年にリリースされた『マッカートニーII』は、当時の音楽シーンにおいて異端とも言える存在でした。
しかし、その実験性と自由な創作姿勢こそが、今もなお聴く人の心をつかんで離さないポール・マッカートニーの真の凄さを物語っています。
リスナーの期待を裏切る勇気、そして時代の先を走る直感こそが、このアルバムの核なのです。
今だからこそ響く、自由と創造の記録
本作のサウンドは決して派手ではありません。
むしろ、静かに、そして時に奇妙に、音楽の自由を奏でているといえるでしょう。
そして、その“自由さ”が、今のリスナーにとって逆に新鮮に感じられるのです。
サブスクリプション時代の今、“プレイリストに合わない”曲が持つ魅力が再び注目されています。
“マッカートニー”の名を冠する理由がここにある
ポールはこれまでに3枚の「マッカートニー」と名のつくアルバムを出しています。
1970年の『マッカートニー』、1980年の『マッカートニーII』、そして2020年の『マッカートニーIII』。
この3作に共通するのは、すべて彼一人で演奏・録音・制作した“完全なるソロ作品”であるということです。
つまり、“マッカートニー”の名を冠する作品は、彼自身の音楽的内面がもっとも強く現れるという証でもあるのです。
『マッカートニーII』は、単なるアルバムではなく、ひとりのアーティストの創造力と孤独が詰まった“音のスケッチブック”です。
それを40年以上の時を経て聴く私たちは、そこに変わらないエネルギーと、新しい感動を見つけることができるのです。
この記事のまとめ
- 1980年発表の実験的ソロ作『マッカートニーII』を再検証
- 自宅録音による全編セルフプロデュース作品
- 当時は酷評されながらも世界各国でチャート1位を記録
- 「Temporary Secretary」など前衛的楽曲が再評価
- “Frozen Jap”の誤解と日本盤での改題の背景
- ウイングス日本公演の中止がアルバムに影を落とす
- 現代インディ音楽シーンに通じるDIY的魅力
- “楽しんで作った音楽”こそが人の心を動かす

